専門職業家にとっての触診・聴診

ドクターGが教えてくれること

NHK『総合診療医ドクターG』は、私の好きなテレビ番組のひとつ。

ある分野に精通したベテラン医師を出題者兼ケースリーダー(ディスカッションの進行役)に、若い研修医の方々が病名を探り当てていく医療推理クイズ・ショーといってよいかもしれません。

番組の性格上、当然に簡単に診断のつかない症例が出題されます。

たとえば、「旅客機が航行中に、ある乗客が腹部の痛みを訴えた。病名としてふたつが思い当たるが、対処法は大きく異なる。飛行機の中なので検査機器はないが、いかにして病名を特定するか?」など。

医療分野にかぎらず、専門職業家として仕事をしている方々は必見の番組だと思っています。

専門的知識に寄りかかって仕事をするのではなく、専門的知識をベースにイマジネーションを働かせてこそスペシャリストたりうる、ということを気持ちがいいくらい見せつけてくれるからです。

お医者さんが触診や打診をしなくなった?

「最近のお医者さんは、触診や打診をしなくなった」、といろいろなところで耳にします。

検査機器の発達によって、触診・打診以上に正確に症状がわかるようになったからでもあるでしょう。また、セクシャル・ハラスメントを疑われかねない、世の中の意識変化もあるでしょう。

でも、もしかしたら、触診・打診をなおざりにした結果、触診・打診によってわかることが少なくなった、という事情もあるかもしれません。本では学べない、実践によって体得するしかない、いわば名人芸だからです。

専門職業家にとって触診・打診とは

では、ほかの専門職業家、たとえば経営コンサルタントの場合、(医師にとっての)触診・打診に相当するものは何でしょうか。

まず思い当るのは、「現場を見ること」。気になるのは、決算書や経営者からのヒアリングを重視するほどには、現場を見ることを大事にしない傾向がうかがわれることです。

その背景には、医師が「エコー検査でわかるのだから、触診は重要ではない」と思っているフシがあるのと同様に、「経営者の話を聞けば事足りる」という判断があるのでしょう。

「最近の経営コンサルタントは、現場を見なくなった」とどこかで言われているかもしれません(現場を見ることをなおざりにした結果、現場を見ることによってわかることが少なくなった、ということでなければよいのですが)。

不動産鑑定士は現場を見ているのか

かかる指摘は、不動産鑑定士にも向けられます。

仕事柄、不動産鑑定評価書を見ることの多い公認会計士の先生がこうおっしゃっていました。

「ピンとこないというか、モノを見て評価していないと感じることが少なくありません。いや、見ているのでしょうけど。」

わずかな例外を除き、不動産鑑定において現地調査は必須事項。でも、公認会計士氏の指摘する「モノを見て評価していない」とは、現地調査を怠っている、という意味ではありません。

寄りつきの良否、施工の良否、使用資材のグレード、補修の必要性の程度、用途変更の難易、間取り設計の良否などが、必ずしも現地で見たものに即して判断されていないのではないか。かかる判断が鑑定評価方式の適用過程に適切に反映されていないのではないか。そんな疑問を感じられたというのです。

現地調査は、実査のエビデンスとしての写真を撮るために出かけるわけではありません。鑑定書の空欄を埋めるために行くのでもありません。

現場で何をつかんでくるか。そのためにどんな準備をするか。それ以前に、現場で見たものを正しく認識するためにどんな勉強をしておくか。

そこをおろそかにすれば、目は急速に節穴に近づいていきます。

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