私が使わないようにしている言葉

カンニング竹山さんの優しさ

お笑い芸人のカンニング竹山さんがラジオ番組に出演したときのこと。

まだ世に出ていない後輩芸人の話になったとき、彼は「こんな言い方、すごくイヤなんだけど」と前置きして、小さな声で絞り出すように「……売れてない……やつらなんですけど」と言ったのです。

売れてない、ということは事実としても、自らの不遇な時代を思い起こして「売れてない」という残酷な表現に躊躇せざるを得なかったのでしょう。私の中で、竹山さんの好感度がグッと上がった瞬間でした。

「言葉は人なり」と聞いたことがあります。言葉は、その表現を選んだ人のバックグラウンドを反映するものだから。

口癖がその人の人となりを反映しているように、あえて使わないようにしている言葉もまた、その人の人となりを反映していて興味深いところがあるやもしれません(よく使う言葉よりも、むしろ使わないように心掛けている言葉の方が、より人となりを正確にあらわしているのではないかと感じます。よく使う言葉には、自己演出といった側面もありますから)。

私が使わない6つの言葉

とりわけ言葉を使って人を動かす仕事をしている私たち経営コンサルタントは、言葉の用い方には敏感であってしかるべきです。私自身にも「この言葉は使わないようにしよう」と自分の中で決めている言葉があるのです。

さしたる理由はありませんが、あえて注釈をつけるとしたら、以下のようになります。

1 文末の「感謝。」

他者に対する感謝の気持ちは大切。独善に陥らないためにも、謙遜さを忘れないためにも、ポジティブでいるためにも、大切なことです。でも、手紙の文末に「感謝。」と書いてあったとして、ああこの人は感謝の意を示してくれたなあ、と私には思えないのです。

「感謝。」というのは、するものであって、書くものではないというのが私の考えです。感謝の意を示すなら、もっと適切な表現があろうと思えてなりません。

2 文末の(笑)

「噺家は笑いながらしゃべらない」と聞いたことがあります。ばかの与太郎を大真面目に演じてこそ、観客は楽しんでくれる。

私も、ズッコケ話を書くときには、自分から笑いださずに真面目に書いています。でも、マンガ家の蛭子能収さんは自分のアイデアの面白さに堪えきれずに笑いながらマンガを書いているそうですから、人それぞれですね。

3 イノベーション

革新とか新機軸を意味するイノベーションという用語をよく目や耳にするようになりました(ブレイクスルーという言葉もよく飛び交っていますね)。

しかし、「イノベーションという用語を使えばイノベーションに近づけるの?」と、疑問に思うことも少なくありません。

控えめに言っても、自分を客観的・批判的に観察するメタ認知能力に乏しい人に、一種自己否定の産物である「イノベーション」という言葉は似合わないと思います。

4 クライアント

これは理屈ではなく、単なる皮膚感覚というしかありません。

自分のお客さんのことをこう呼ぶ人たちをみると、奥さんのことを「うちのワイフがさあ~」などと言っているシーンを連想します。

5 戦略

私自身は、「戦略」を企業の経営政策一般を示す言葉とは認識していません。質的評価を含んだ表現だと思っています(だから、戦略の失敗はあり得ても、悪い戦略はないと思っています。筋の悪いものは戦略たりえないから。)。

それに、実際の企業の経営政策策定を支援するときには、戦略とそれより下位のレイヤーに属する作戦・戦術等を関連付けつつも、明確に峻別して階層化することが大切と認識している(下例参照)ので、ことさら「戦略」という言葉だけを取り出して説明する必要を感じることは少ないです。

「戦略」という言葉に限らず、各人が少しずつ違った理解に立っている概念ワードを用いて、抽象的な次元で共通理解に至るのは難しいですし、具体的な議論をするのならば無理に「戦略」という言葉を持ち出す必要もないと思います。

「戦略とは何か?」を追究される経営学者の先生方がお使いになるのはかまわないのだけれど、それに悪影響されて、「戦略」という言葉で何かを語った気になってしまわないよう気をつけたいですね。

6 結果がすべて

結果に再現性はなくとも、結果を導くための適正手続きには再現性がある。だから、その手続きそのものに、結果とは独立した価値があるはずだ。これが私の理解です。

「過程がどうあれ、結果が出なかった取り組みに価値はない」。それもひとつの見識だと認めるにやぶさかではありません。

でも、「結果がすべて」が口癖の人が、結果が芳しくなかったときも、結果が良かったときと同様に、率直に結果を反省し、開示しているに違いない、と思いこむのは、少しナイーブすぎるのではないでしょうか。

大人の事情、というものでしょうが、華々しく喧伝された成功事例も、誰の目にも明らかな失敗に終わったとたん、まるでなかったことのようにスルーされる、というのはよくあることです。

おわりに

こうして並べてみると、概念ワードが多いことに気付きます。

思うに、私は内心、これらの言葉に「相手をケムに巻く、思考停止させる」ムードを感じ取っているのかもしれません。

ホワイトボード