マンガから経営書まで~今年印象に残った5冊

今年一年間に読んだなかで、印象に残った本を5冊ご紹介したいと思います。

紹介順は、作品の優劣評価を意味するものではありません。

 

結果ではなく、原因に線を引け

一流の人は、本のどこに線を引いているのか 土井英司 サンマーク出版

著者は、部分練習の重要性を強調する。そして、ビジネスパーソンに読書を通じた部分練習のポイントとコツを伝授してくれる。

「そうだ、その通り!自分の考えは間違っていなかった」と感じる箇所に線を引くのは、単なる自己陶酔に過ぎない。自分が「正しい」ことを確認したところで、パワーアップの糧にはならない。逆に、読んだときには多少の嫌悪感があっても、どういうわけだか、気になる1行に出会うことがある。こんな1行には、思い切って線を引いてみたい。線は、新しい発見や役に立った箇所、そして自分の考えと「ちがう」箇所に引くことで、成長の糧になるのだ。

この本が、単なる読書のススメやノウハウ本に終わっていないのは、著者自身が読書を通じて部分練習に勤しみ、深い知見に達したからだと納得できた。

 

デザインとは、問題解決の道具だ

いいデザイナーは、見ためのよさから考えない 有馬 トモユキ  星海社新書

『デザインは、ロジカルシンキングやプレゼンテーションと同じ問題解決の「道具」であり、コツさえ学べば誰にでも使いこなすことのできるものなのです』と説く著者は、デザイナーの思考をプロセス分解することにより、「デザインの論理」を明らかにしていく。

デザインには、その人なりの感覚のよさ、造形の技術が必要です。けれども、デザインにはなんとなくの”感覚”だけで決める部分がありません。デザインの基本構造を支配しているのは”論理”です。デザインには、この文字はどうしてこの大きさなのか、なぜこの色なのかと言う全ての要素に理由があり、言葉で説明可能であるはずなのです。

本書のいいところは、概念的過ぎないことだ。

例えば、チャプター3「あなたのプレゼンはなぜ複雑なのか」では、自ら手掛けたプレゼン実例を挙げつつ、デザイナーはプレゼンテーションをどうデザインするのかが語られる。

プレゼンテーションの目的は、自分の伝えたいことをちゃんと相手に伝えることであり、デザインはそれを実現するための手段に過ぎないわけだ。

インパクトだけを狙ったプレゼンが変に見えてしまうのは、何かを伝えるためにインパクトを狙ったのではなく、インパクトそのものを目的としている、すなわち目的がちぐはぐだからなのだろう。

ちなみに著者が挙げた実例は、伝えたいことの優先順位がよく整理されたとってもシンプルなスライドだった。

加えて、この本のタイトルはじつに秀逸である。そう考える理由をこれから書く。本書の意義は、ここに集約されていると思うからだ。

昨今、経営とデザインの関係が関心を集めるようになってきた。デザイン思考ないしは方法論を取り入れることで、ビジネスをより次元の高いものにできるのではないか、との問題意識を持つ人が増えたということである。デザインが経営にもたらす効用について説く書籍もいまや珍しくはない。

しかしながら、ビジネスの世界では、そうした理解に至った人は未だごく少数にとどまる。

私自身、「経営とデザイン」を考えるセミナーに参加しようとして、その主たるテーマが「ポスターやチラシをうまく作ると商売がうまくいく」的なものであることを知り、愕然としたことがある。どう考えても、経営におけるデザインの意義を一層誤解させる行き方だと思わざるを得なかったからである。

この点、本書はタイトルを見ただけで、デザインのもっとも本質的なことが端的にわかる。具体的にはどういうこと?自分もデザイン的視点が持てるの?と思った人は、ぜひ書店で手にとってみてほしい。

 

あんた、私が誰だか、わかってないの。

テティスの逆鱗 唯川 恵 文藝春秋

敏腕の女性美容形成外科医を中心に、整形モンスターと化した女性たちを描く連作集。

高校時代、ブス以下・バイ菌以下と嘲られた莉子は、全身整形でキャバ嬢となり、稼いだ金を惜しみなくつぎ込んで整形を繰り返すことで、ついには高級キャバクラのナンバーワンへと登りつめる。

私、莉子、沢下莉子なの。あんたと同じ高校に通ってた、デブでブスで根暗の莉子。『気持ち悪いから見るな』って、みんなの前で言ったでしょ、覚えてない?

登場人物がことごとく不幸のどん底に突き落とされる最悪な読後感なので、今年もっとも印象に残った作品ではあるけれど、決しておすすめはしない。

ただ私には、美容整形に救いを求めた彼女たちを愚かだと切り捨てることはとてもできなかった。

金銭や教養などと違って、自分の努力では手に入れられないものがこの世にはあり、持たざることがその人にとってどれだけ重要なことかは、持たざる者にしかわからないと思う。

 

社長の最大の任務は、お客様のところを回ること

経営の思いがけないコツ 一倉 定 日本経営合理化協会出版局

著者は、没後18年が経過した現在もなお信奉者の多い『社長専門』のカリスマ経営コンサルタント。

経営コンサルタントが提供すべき本質的価値は「洞察」にあることを(いささか古いけれど)リアルで腑に落ちる事例を豊富に交えて教えてくれる。

古い本だからやむを得ないところもあるが、全部原価計算が経営意思決定を誤らせることがある、という至極当たり前なことを、渾身の力を込めて長々と論じているのには笑ってしまった。

それはまるで、老人の繰り言のようでもあり、3行で言えることをくどくどと述べる残念なメルマガのようでもあったからである。

もちろん、かかる私の認識はおそらく間違いで、重要なことだけに、必ずしも管理会計や経営工学に明るくない中小企業の経営者に噛んで含めるように論じよう、という一倉氏のやさしさのあらわれなのであろう(ただし、丁寧ではあるけれど、うまい説明ではないとは思う)。

この本を読んで、割掛けの固定費が経営判断を誤らせることがあると知ったからといって、判断ミスを回避できないケースは少なくないだろう。採算性の比較判断というのは、経営成績が出てから意思決定すればいいような、のんびりしたものでないことが多いからだ。

ここには書かないけれど、ほんのちょっと別の着眼点が必要なのだ。それは、採算性の比較判断をするのはどんな局面か、ということに密接に関わっている。

 

お客様は仏様ですから。

死役所 あずみきし 新潮社

死者がまず訪れて、死後の進路を決める手続きをする場所、それが「死役所」。

死後の行き先を決めるのが閻魔大王ではなく役所だというのは、市役所職員だった著者ならではの発想だろう。

そもそもこの作品に興味を持ったのは、著者が別府市役所の職員らしい、と噂に聞いたから。

読んでみたら面白かったので、電子書籍で最新刊(現在、7巻まで出ている)まで全部読んでしまった。

概ね一話完結形式で描かれるドラマの中には救いのない内容のものもあるが、「死者が自分の死と向き合い、気持ちの折り合いをつけるまで」の顛末を物語るものが多い。

ところで、マンガは、電子書籍というメディアにあっていると思う。かさばりやすいし、一度読んだら再び参照する機会は少ないけれど、手持ち無沙汰なときにいつでもサッととりだして読めると便宜である。

ネットに接続できない環境にいる時(旅客機の中など)にも重宝している。