不動産鑑定評価書はただのお墨付きか?

記載事項をただ網羅しても対象不動産の特徴は伝わらない

他の不動産鑑定士が発行した不動産鑑定評価書をみる機会があります。

アプローチをわかりやすく表現しているな、装丁が丁寧で読みやすいな、と感心することもしばしばである反面、何度読んでも対象不動産の輪郭が伝わってこず、モヤモヤした気分にさせられるものにも行き当たります。

先日見た鑑定評価書も、後者に該当するものでした。

(不動産鑑定評価基準に照らして)必須の記載事項がもれなく網羅されているにもかかわらず、対象不動産の特徴もわからなければ、整然と記載されている評価アプローチにもなるほどというところが感じられませんでした。総じて通り一遍の表現に終始しており、この不動産だからこういう表現になった、というものが伝わってこないのです。

おそらく、対象不動産が変わっても、大筋の説明内容は変わらないのではないか。そんな印象が拭えませんでした。

依頼者は取得した鑑定評価書をどう読むか

たしかに、不動産の鑑定評価書というものは、いわゆるお墨付きとしての性格が強く、取得したお客様があらためてじっくり読む、ということは少ない傾向があります。

不動産鑑定評価書を何度も熟読する人がいるとしたら、それは自治体の用地担当者や、(訴訟上の鑑定における)裁判官と弁護士、公認会計士・税理士くらいかもしれません。

しかし、それでは力を込めて作成した鑑定評価書の真価に気づいてもらえませんし、どうせただのお墨付きなのだから、安けりゃ安いほどいい、ということにもなりかねません。

師匠の受け売りですが、鑑定評価とは、鑑定(目利き)をしたうえで評価(値踏み)をするもの。「鑑定評価額がいくらか」と、評価に関心を寄せるだけではもったいない。

それゆえ、不動産鑑定評価書の中で、対象不動産のリスク要因を説明することは当然として、それが読み手によりよく伝わるような注意喚起をする、といったような配慮は欠かせない気がします(注)。

その評価書がどう役にたつのか翻訳する

ジャパネットたかたの成功は、高田明前社長が、家電に疎い人たち(たとえば主婦や高齢者)に独特の語り口で、その製品があなたの生活にどう役にたつのかを端的に語りかけたことがポイントだったといわれています。製品が到着したらすぐ生活シーンに活かせるようなアクセサリーを無料で添付する、というサービスも当たり前のように行っていましたね。

私自身も、不動産に必ずしも詳しくないお客様に、その評価書がどう役にたつのか翻訳することが大切だと思っています。また、その後の対象不動産の利活用に役立つような情報を出来るだけ盛り込むように留意しています。

県外のある特殊で大規模な事業用不動産の調査のご依頼を戴いたときのこと。成果物をお納めし、内容をご説明した際、「この不動産を補修・リニューアルするにあたっては、どの箇所に重点を置き、どのような点に留意すべきか、それはなぜか。予算の目安はどれくらいか。」について特に意見を申し上げました。

お客様は「それはよいアドバイスを戴いた。もっともなことだと納得できる。リニューアルにあたっては十分に参考にしたい。」ととても喜んでくださいました。

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(注)この点、裁判所の競売評価書は、買受希望者に入札価格の目安の開示と注意喚起を目的としているだけに、簡易ながら、対象不動産の特徴が伝わりやすい構成になっている気がします。
私自身も、競売評価を手掛けるときには、(本文に詳述するのとは別に)「建築基準法の要件を満たしていない違法建築である」「躯体の一部に劣化損傷著しい箇所があり、倒壊のおそれがある」「地盤不良に起因する床面の甚大な不陸が認められる」「対象建物の一部が目的外土地内に越境している」など、対象不動産の重大な欠陥について、表題部の特記事項欄に列挙するようにしています。

弊社不動産鑑定評価書