科学は弱し、感情論は強し

中西準子さんという78歳の女性科学者の話。

彼女の専門分野は、環境リスク工学。長年、水の研究に没頭し、公害反対運動華やかなりし時代には、国の下水道行政を厳しく批判して、その後の政策にも影響を与えたが、女性であったこともあり、東大工学部では万年助手の地位にとどめ置かれた。

下水道を研究する中で彼女が得た大きな知見に「リスクのトレードオフ」がある。つまり、あるリスクを減らそうとすると、別のリスクが増加するというジレンマである。

ペルーで水道水の塩素消毒をやめたら、コレラが蔓延したことがあった。水道水中の塩素は人体にまったく無害とはいえないかもしれない。が、そのリスクを回避するために水道水の細菌的品質を犠牲にし、伝染病のリスクを甘受できるのか。

彼女は、そうした見地から、福島原発事故や豊洲市場移転に関する発言を続けている。
残念なことに、かつて彼女を「公害反対運動の旗手」ともてはやした勢力は、いまや「政府を代弁する御用学者」と呼び、敵視している。しかし、エビデンスを重視する彼女の姿勢は、おそらく下水道行政を厳しく批判した当時も今も変わっていないのではないだろうか。

私も、SNSを利用するようになって、気づいたことがある。自分と違う意見や感じ方に触れると非常に不快な気分になる人がなんと多いことか。そのことである。

誰もが自分の思ったことをつぶやくことができる今日、そういう気質の人はさぞや精神の安定を維持するのに大変だろう。同情を禁じ得ない。でも、自分だけ言いたいことをいい、周りの人間には黙れ!というわけにもいくまい。アンガーマネジメントがもてはやされるのには、こんな背景があるのだ。

自分と考えの違う人のことを即、バカとか頭がおかしいと決めつけてしまう人には届かないかもしれないが、怒りをコントロールするというより、自分と違う意見に触れてもカッとしない余裕をもっていていただきたいなぁ~と思う。

私自身はというと、原発は世の中のために必要という立場、もっと正確に言うと、事故発生の蓋然性が高い原発については計画的に冷温停止・廃棄を進め、許容リスク範囲内の原発については運転を継続という考えだが、反原発の立場には同意できないまでも、腹は立たないし、バカとも思わない。そんな自分が変わっているとも思わないのだけれど…。