ヨーロッパでブーム・和ジャズの名盤名演5選

ジャズと小平奈緒と伊坂幸太郎の三題噺

ヨーロッパでは空前の和ジャズブームとのこと。

以下は、BBEというレーベルがリリースした和ジャズのコンピレーションアルバムに取り上げられた一曲にまつわる物語です。

その曲は、相澤徹カルテットの遺した幻のアルバム『タチバナ』に収録されていたものでした。

参考サイト 相澤徹カルテット『TACHIBANA』: 若き才能とジャズに狂った富豪の話

話は1975年にさかのぼります。

無名の天才大学生4人組とそれに惚れ込んだドライブインオーナー橘郁二郎が、たった一度だけ制作したジャズアルバムは、世に出ることなく埋もれてしまいました。

医学生だったピアニストは医師となり、やがて糖尿病の権威と呼ばれるようになります。

そして、彼の勤務する相澤病院は、スピードスケート小平奈緒選手の競技活動を支え、彼女は平昌冬季オリンピックで金メダルに輝きました。

一方、ほんの200枚しかプレスされなかったジャズアルバムは、いつしかコレクター垂涎のレア盤となり、ヨーロッパの有名レーベルに「日本ジャズ界を代表する一曲」として採用されるに至ったというわけです。

何だか、時空を超えた奇跡めいていますよね。有名小説家原作の日本映画を見ているような。

何の映画って?アレですよ、『フィッシュストーリー』。

 

私の考える和ジャズの名盤名演5選

BBEのコンピの曲目をみると、松風鉱一、森山威男、杉本喜代志など、相当に凝った、個性的なチョイスです。選者の音楽的嗜好も伝わってきます(コルトレーンとか好きそう)。

これに倣って、以下に、私なりの和ジャズの名演を挙げてみることにしました。

選択基準は、日本人アーティストらしい感性が感じられるものであること、ヨーロッパの人たちにも受け入れられそうなものであること、難解すぎないこと、そして私が何度も何度も聞いた大好きな演奏であることです。

渡良瀬  板橋文夫

板橋文夫は、栃木県足利市出身のピアニスト。「渡良瀬」は、彼が作曲した代表曲のひとつです。

もちろん彼が幼少時から親しんだであろう、渡良瀬川にちなんだ作品です。

日頃は農耕に勤しんでいて、ライブの時だけピアノに向かう孤高のジャズピアニスト。

そんな勝手な想像が浮かぶ、土俗的で力強い演奏です。

 

ハッシャバイ  森山威男カルテット

Hush A Byeは、1952年のアメリカ映画「ジャズ・シンガー」の挿入歌として有名な曲。

わが国では、夭折したテナー奏者小田切 一巳の名演が光るこのアルバムが、もっとも名高いものです。

一度聴いたら忘れられないような、物悲しくも疾走感のあるすばらしい演奏です。

 

パラジウム  佐藤允彦トリオ

日本のジャズを「天才ドラマー」富樫雅彦を抜きに語ることはできません。

その絶頂期(1969年)に録音されたアルバムは、わりと難しい音楽をやっていることの多い富樫の演奏としては、親しみやすいものです。

ビートルズの名曲「ミッシェル」を静かに奏で、凄みを感じさせることのできる稀有なアーティストでした。

この演奏がもたらしてくれる感動とは関係ありませんが、この翌年、彼は残りの半生を車椅子の上で送ることになる悲劇に見舞われることになるのでした。

 

マル・ウォルドロンに捧ぐ  山下洋輔トリオ

高校生の頃、NHKのFMでこの曲をはじめて聴いたときのことを覚えています。

番組パーソナリティ(たしかジャズ評論家の行田よしおさんでした)が「誰の演奏だかわかりましたか?ハチャメチャな演奏スタイルで知られる山下洋輔トリオの演奏なんです!」と言っていました。

山下洋輔トリオは、日本におけるフリージャズの旗手で、ヨーロッパツアーの実績もあります。もしかしたら、彼らの暴力的・スポーツ的なフリージャズは、ヨーロッパの人々には「現代音楽的」に響いて、受け入れられたのかもしれません(初のヨーロッパツアーライブ音源である『クレイ』からは、要所で湧き上がる観客の拍手や歓声に会場の熱気が伝わってきます)。

そんなことは知らなくても、ただただピアノの響きの美しさに聞き惚れていられるのが、このアルバムの美点であります。

 

SUSTO(ススト) 菊地雅章

これをジャズのくくりに入れてしまっていいかどうかには、いまだに迷いがあります。フュージョンとかクロスオーバーといったジャンルに該当するのかもしれません。

しかし、T-SQUAREやカシオペアに代表されるようなロックビートのインストルメンタル音楽とは一線も二線も画するものであることは疑いなく、マイルス・デイヴィスが開拓したエレクトリック・ジャズのひとつの発展形としてここに掲げることにしました。

念のために付け加えると、ジャズ界の帝王マイルス・デイヴィスが1960年代末からやってきた音楽も、ジャズと呼ぶことに躊躇のある、だからといって何と呼べばいいかわからない、まさにマイルスの音楽としか呼びようのないものではありました。

はじめて聴いたときの「何だこれは?」という違和感は、幾度聞いてもあまり変わりませんが、しばらくするとまた聴きたくなる妖しさと完成度です。

 

おわりに

よし、私なりの和ジャズの名演を挙げてみよう、と思い立ったときには、10枚くらいすぐに挙げられると思ったのですが、いざ選んでみるとなかなか難しいものです。

また思いついたら増補するかもしれません。