退屈でややこしい話を面白くした人のはなし

昨日は、グランメッセ熊本(益城町)で開催された公益社団熊本県不動産鑑定士協会主催の研修会に参加してきました。

内容は、動産評価分野のうち機械設備評価に係るものと、民法改正に係るものの二部構成でした。

研修会概要

機械設備評価の意義と可能性

第1部は、『鑑定評価の周辺業務の可能性を探る〜不動産以外の有形資産の評価(機械設備評価)の資格制度について〜』。

機械設備は、単独では不動産ではありませんが、主として以下の理由から、不動産鑑定評価とは不即不離の存在でもあります。

①土地や建物の従物とみるべき場合があること

②工場財団や観光施設財団として登記されていれば、財団組成物件一体としての評価が求められる場合があること

③工場抵当法上、抵当権の効力は工場内の機械装置や工具器具に及ぶと解される結果、競売評価ではこれら一体のしての評価が求められる場合があること

たしかに現状では、機械設備評価を身近に感じている不動産鑑定士は、ごく一部にとどまることでしょう。

しかし、たとえば「過疎地域に存する操業を停止した大型プラント」など、関係者の誰の目にも「価値があるとしたらプラントだけだな」ということが明らかなケースがあるはずです。

私自身は、今日のお話のポイントを次のように理解しました。

①資産評価士(米国の機械設備評価の専門家制度)の世界には不動産鑑定評価基準とは異なる独自の多様な価格概念があること

②資産評価士は、対象機械装置に即して適用すべき価格概念を自らの責任において判断すること

③評価手法としては、価格の三面性を反映した3つの手法があるが、実務的には原価法(コストアプローチ)が中心であること

④評価すべきは機械設備自体ではなく、その効用(生産能力、生産効率)となること

マーケットアプローチとインカムアプローチの援用の仕方やその限界については、私が日頃感じている通りで、なるほどと納得できる内容でした。

大変勉強になったよい講義でした。ASA資産評価士のお話を聴くのはこれが2度目なのですが、前回は私自身がはじめて聞く内容であったことや、やや高い目線での網羅的なお話であったので、消化不良なところがありました。

今回は、講師ご自身が悩んだり、試行錯誤したりした体験を踏まえたより身近なお話で、大変よかったと思います。

ASA資産評価士講座

民法改正の背景にあるものを面白く

第2部は、『民法(債権法・相続法)改正の概要と解説』。これが3時間に及ぶ長丁場でした。

誰よりも困ったのは、講師の下山和也弁護士に違いありません。民法改正を語るには絶対的に時間が足りない。受講者は法律の専門家ではなく、3時間集中力が続くことが期待しにくい…。

結論からいえば、最後まで集中力を切らさず、ノートをとりながら興味深く拝聴することができました。

私にとってはさほど関心のあるテーマではなかったのですが、それだけ下山先生のお話が巧みだったということです。スピード、聴衆への目配り、問題提起や話題転換のうまさ、どれをとっても名講義と言ってよい素晴らしい内容でした。

何より引きつけられたのは、「改正の背景にあるもの」を実務とのかかわりで平易に説明してくださったことです。

たとえば、現行民法は消滅時効に関し、10年という一般的な条項と、短期消滅時効と呼ばれるいくつかの規定を置いています。他方、民法の特別法たる商法は、商事債権について5年と定めています(522条)。

改正民法では、短期消滅時効が廃止され、時効期間は原則5年となる一方、商法522条は撤廃され、新民法に一元化されることになるそうです。

ふーん、としか思えない内容ですが、

「民事債権はこう、商事債権はこう、というと簡単なようですが、じつは商事債権かどうかの判断はややこしいのです。たとえば信用金庫の貸金債権は、信用金庫に商人性が認められないという解釈から、民法が適用されることになります。このように、民事債権、商事債権の区別に実務的に難があることを考慮すると、今回の一本化は現実的な措置と思われます。」

あまり興味のない話が、急に興味深くなってきませんか?

高杉晋作は「おもしろきこともなき世をおもしろく」という言葉を遺したそうですが、昨日は「退屈でややこしい話を興味深く」話す力量を持った人物に会って感動した、というお話でした。