経営指導員さんのグループコンサルティング

中小企業支援機関の職員研修会にコメンテーター(講評者)として出席させていただくことがあります。
日頃、中小企業の経営支援に携わっておられる経営指導員の方々が、支援成果(対象企業は匿名とされています)を発表し、相互に学び、問題意識を共有する「経営支援事例研究」の場です。

いちばん学ばされているのはこの私

研修会では、講評者である私自身も毎度たくさんのことを学ばせていただいています。
指導員の皆さんが、どんな局面でどんなご苦労をされているのかの一端を知ることができますし、新手の中小企業支援機関が林立する現在においてもなお、既存の支援機関が持ち味を発揮するシーンがさまざまあることにも気付かされます。何より、参加者が熱心なので、出席するのが毎度楽しみなのです。

講評者の使命は何か

講評とは何か。私自身は、これを「経営指導員の方々に対するグループコンサルティング」と捉えています。
なにしろ限られた時間しかありませんけれど、事例発表者以外の参加者の学びになるようなコメントを心がけているつもりです。
他方で、限られた情報しか知らない者(講評者)がどこまで言及していいか、決めつけるような表現になっていないかということはつねに頭にあります。いわゆる「ダメ出し」はしません(ダメ出しという言葉が持つ傲慢な響きがそもそも嫌いです)。
支援事例について、私なりの着眼点(「私だったらこう見る、こうする」)をお示ししたり、よいと思うところを褒めたり、支援過程で判断の分かれ目になるようなポイントについてご質問したりしています。

議論が活性化するのはどんなときか

長年拝見しておりますと、どういう事例発表のときに議論が活性化するのか、ということもだんだん見えてきました。
それは、財務諸表(数値は仮装されています)やさまざまな経営指標が添付された支援事例です。
定性的な情報が、定量的な情報を伴うことで立体的になり、事例の実像を把握しやすくなるわけです。財務諸表のみから読み取れることは限られていますが、財務諸表なしに経営の話をするというのもまた難しい。レントゲンを撮らずに問診だけで診断を下すようなものですから。見方を変えれば、財務諸表が出てくるメリットの一端は、一般論が通用しなくなる点にあるといえるかもしれません。

ザザッとメモを取る音が一斉に起きる

私の講評が、内心、ここが勘どころだと思っているあたりに差し掛かると、「ここがポイント」と申し上げなくても、ザザッとメモを取る音が一斉に起きて、皆さんが熱心に参加して下さっていることがよくわかります。
ちなみに、今年度の研修会でメモを取る音がいちばん長く続いたのは、事業承継をめぐる事案で、企業価値(ここでは株主資本の価値を指しています)をどう捉えるべきか、それが財務諸表から読み取れないのはなぜか、本来株主資本の価値はどう評価すべきだったのか、について述べたときです。
コメントできる時間は数分しかなかった(2時間くらいかけて話すような内容です)のですが、皆さんが強い関心と問題意識をお持ちになっていることが窺えました。

中小企業支援の質的向上に必要なもの

ところで先日、中小企業支援機関で経営指導に携わる複数の方から、中小企業診断士などの専門家支援に同席したときに感じたことなどを伺う機会がありました。婉曲な表現でしたが、首を傾げざるを得ない事態もままある、という趣旨の発言でした。
自分のやっていることを第三者に見てもらい、意見や感想を伺う、という機会は、誰にとっても貴重なものです。経営顧問を迎える企業経営者の多くは、その本質を理解されているのだと推察します。
中小企業診断士のレベルアップの重要性が言われて久しいですし、それが間違いだとも思いません。しかし、それでは足りない。
専門家派遣を要請する側のキーパーソンである経営指導員の方々が、専門家の力量を正確に把握し、自ら描いた支援のアウトラインの中で、専門家派遣をよりよく活用できることが、長い目で見たときに、最も相談企業さんに資することになるのではないでしょうか。

連携するセンス

相談者に直接指摘するにはまだ機が熟していないことでも、指導員の方々とは共有しておきたい事柄もあります。
私は今はもう公的中小企業支援(いわゆる専門家派遣と呼ばれるようなものです)にはあまり携わっていないのですが、かねて支援報告書は当日中に担当指導員宛てお送りすることを基本にしてきました。
何度かの関与しかできない私たちと違って、継続的に支援に当たられる指導員の方に、私の下した所見や今後の支援アプローチの目指すところ、あるいは懸案事項をなるべく早めにお伝えするにしくはないと思うからです。
セミナー風景