私選・50~60年代モダンジャズ 優秀録音盤 三選

Ornette Coleman/at the Golden Circle Vol. 1

(bluenote,1965,邦題「ゴールデン・サークルのオーネット・コールマン Vol.1」)

ストックホルムのゴールデン・サークルというクラブでの実況録音盤。

彼の代表作のなかでは、モダンジャズの歴史に及ぼした影響力などから、The Shape Of Jazz To Come (邦題「ジャズ来るべきもの」Atlantic,1959)の方がむしろ有名かもしれませんが、多くのファンが最高傑作として推すのはおそらくこのアルバムです。

この記事をアップしようとした矢先、オーネット・コールマンの訃報に接しました。フリーフォーム(フリージャズ)一派にくくられることの多い奏者ですが、往年の山下洋輔トリオのような暴力性も、セシル・テイラーのような自己陶酔も感じられない、ノレンに腕押し、糠に釘のようでいて知的な音楽世界が彼の持ち味です。

このアルバムは、録音状態が素晴らしく、コールマンのなんともいえない生々しいサックスの音色―オノマトペ(擬音・擬態語)で表現するとしたら、ヌラヌラ、テラテラっという感じでしょうか―を間近に感じることができます。

四谷いーぐる店主でジャズ評論家の後藤雅洋氏は、朝いちばんにこのアルバムを聴くとスッキリ眼が覚めるそうです。私も試してみましたが、私自身はやっぱり、以前ブログ(「休日の朝、仕事場で聴きたい音楽三選」)でとりあげたような朝向きのアルバム群のほうが合っている気がします。

そういえば、私が大学生の頃、スタインバーガーのベースを引っ提げて一世を風靡したジャマラディーン・タクマというベーシストがおりましたが、オーネット・コールマンこそ彼の師にあたる人物です。

 

Art Pepper/Meets The Rhythm Section

(Contemporary,1957,邦題「アート・ペッパー・ミーツ・ザ・リズム・セクション」)

This is the coffee!が「これぞまさにコーヒー!」という意味なら、そしてthe whiskyが「これこそがウイスキーだ!」という意味なら、the rhythm sectionは「これがリズム隊の中のリズム隊だ!」という意味なのでしょうか。このアルバムが吹き込まれた当時、最高のリズム隊といえば、ボクサー出身の曲者レッド・ガーランド(ピアノ)、若き秀才ポール・チェンバース(ベース)、強面フィリー・ジョー・ジョーンズ(ドラムス)からなる、「ジャズ界の帝王」マイルス・デイヴィスのクインテットのリズム隊でした。

ある朝、ペッパーは不意の来客に起こされます。訳も分からず押し込まれた車内で聞かされた用件は「これからレコーディングだ」。寝耳に水の話です。

当時、演奏活動に半年ものブランクがあった彼は、「うまく演れるだろうか?」と不安に襲われました。しかも共演者は、ちょうど西海岸ツアーで当地を訪れていたマイルス・デイヴィス・クインテットのリズム・セクションだというのです。

「帰ってくれたら嬉しいわ」(You’d be so nice to come home to)は知ってるな?と聞かれ、知らないと答えると、「じゃ、いま覚えろ」。そんな三重、四重の緊張感の中で、ペッパーは頑張りました(大量のヤクで気合を入れた由)。
凡人が緊張してもロクなことになりませんが、天才ペッパーが異常な緊張感で産み出したのは生涯屈指、ジャズ史に残る大傑作だったのです。ちなみに「帰ってくれたら嬉しいわ」は、この盤の一曲目、珠玉の名演として知られています(後年、かなりハードにブロウするようになる彼も、この頃は歌心のある軽やかなサックスを聴かせてくれます)。

さて、肝心な録音ですが、後藤雅洋氏によると、多くのジャズ喫茶がこの盤をオーディオ・チェックに使っていたという折り紙つきです。ただし、いかんせん録音時期が古いので、シンバルの音は前出のオーネット盤ほど清澄な響きではありません。

ルディ・ヴァン・ゲルダーが手掛けるブルーノート・サウンドは、極端なオンマイクで迫力あるサウンドが特徴です。これとは対照的に、ロイ・デュナンが手掛けた本盤(いわゆるコンテンポラリー・サウンド)はオフマイクで、迫力にはやや劣るものの、自然な楽器の音がします。オーディオ・チェックに採用されるゆえんですね。

Miles Davis/Miles in Tokyo

(CBSSony,1969,邦題「マイルス・イン・トーキョー」)
音響のよさに定評のあった東京厚生年金会館大ホールでの、マイルス・デイヴィス・クインテット初来日公演の実況録音。東京厚生年金(通称・新宿厚生年金)は、当時はもっぱらクラシック系の音楽会に供されていたと聞いたことがあります。

それゆえか、このときレコーディングを担当した若き録音技師は、クラシック音楽専門の人物。「新宿厚生年金の音響特性をよく知る専門家を」というレコード会社の配慮だったのかもしれません。いささか迫力に欠ける面は否めないものの、さすがクラシック畑のエンジニアらしく、ホールの響きを巧みに生かした名録音だと思います。この録音技師こそ、のちに「録音の神様」と呼ばれることになる半田健一氏だったのでした。

ちなみに、このときのリズム・セクションは、ハービー・ハンコック(ピアノ)、ロン・カーター(ベース)、トニー・ウイリアムス(ドラムス)。おそらくマイルス・デイヴィス・クインテットの歴代リズム隊中、最高の布陣です。

おわりに

以上、私が考える優秀録音盤三枚をご紹介しました。「いや、こっちのほうが良い録音だ」、というようなご教示は、ぜひいただきたいものです(それがまたジャズ鑑賞の楽しみでもあります)。
それにしても、どれもジャケットが秀逸だと思いませんか?「ジャケ買い」もアリだな、と思わせてくれる三枚です。