先日、書店で『起業は1冊のノートから始めなさい―「事業プラン」から「資金計画」までを可視化する起業ログのススメ』(ダイヤモンド社・2013)という本が目にとまりました。
私もまた独立開業を目指して「開業準備ノート」を綴った経験から、創業セミナー等で「開業準備ノートをつくろう」と呼びかけているひとりだからです。
この本の著者上野 光夫氏は、政府系金融機関(日本政策金融公庫)で起業のアドバイスを長年続けてきた人物。その経験から、「成功する起業家は、自分の計画や問題点をノートに記していき、いわば自分の思いを熟成させている」ことに気付いたといいます。
数多くの起業家に接してきた経験から、起業でうまくいくポイントを一言で述べるとすれば、「しっかりと事前準備をしたかどうか」に尽きます。事前準備をしないで起業するのは、トレーニングをせずにマラソン大会に出場するのと同じです。途中で倒れる羽目になるのがオチで、完走なんてできないでしょう。
起業そのものを実現するのは度胸さえあれば誰にでもできることですが、事業を軌道に乗せるのはとても困難で、いかにして会社をつぶさず経営するかが大きな課題です。そのためには、入念な事前準備が欠かせません。ところが、起業した人の中には、事前準備が不足している状態でスタートしたために、すぐに破たんしてしまう人がとても多いのが実態なのです。
そこで彼は、「起業準備のために手書きのノート(起業ノート)活用を」と説くようになったのです。自らの起業にあたってもそれを実践した由。
そのノートには、ビジネスのアイデア、経営ノウハウ、行動計画など、起業準備をしている過程で発生するさまざまな情報を記録していきます。とても原始的な方法のようですが、ノートをつけることによって、起業の計画を徐々にブラッシュアップしていくことができます。
起業ノートの「4つの効用」
じつは私はまだこの本を読んでいないのですが、上野氏によれば、ノートをつけることによる効果は、主に3つあるそうです(後掲参考記事参照)。
1つは、頭でモヤモヤと考えていることを文字で可視化することによって、思考が整理できること。
2つ目は、起業準備に関する情報を一元化することによって、不足しているスキルやノウハウが明確になるということ。
3つ目は、起業準備の進捗状況を確認できるということ。
いずれもなるほどと頷けますが、私自身の経験に照らし、上記にぜひとも付け加えたい4つ目の効用があります。それは、「起業準備が『習慣化』できる」ことです。
忙しい日々を過ごしながら、起業に向けて着実に情報を収集し、勉強し、アイデアを練り、決意を固めていく、というのは、それほど簡単なことではありません。あっという間に一ヶ月、半年が過ぎていってしまう。
しかしながら、「毎朝15分だけノートを開いて考える」という作業に置き換えると、それが意外と苦にならないのです。毎日「開業準備ノート」と向き合うことで、自然と「起業準備に向き合う」ことができるわけです。
どう書き進める?起業ノートの実際
前述のように私自身も、独立開業の4年前から『開業準備ノート』なるもの(下写真)をつくって、「初年度売上予測」「ターゲット顧客の案」「屋号のアイデア」「サービス・コンテンツ」「集めるべき資料」「必要な物品」「オフィスレイアウト案」などを思いつくままに綴っていきました。
とにかく思いついたことは書いて残す。それを見返して、気付いたことを書き加える。アイデア出しはこれに尽きますが、私なりにつかんだコツを以下に三つ記します。
1 ノートをパラパラめくることを日課にする
2 決めておきたいこと、整理しておきたいことをページタイトルとして、とにかく書いていく
3 文章にしようとしない(キーフレーズだけ列挙していく)
上記1は、長く続ける秘訣。一日1ページずつ書き進める、などと目標を高く置き過ぎると途中でイヤになります。毎日ノートに向かうことを続けていると、関連する新聞記事が自然と目に飛び込んでくるようになったり、何気ない会話にヒントを見出すようになったりと、変化していく自分に気付くはずです。
上記2は、つねに「考えるテーマ」「調べるテーマ」を持つためのコツ(注1)。たとえば、ページの一番上に「開店挨拶状を送る人リスト」とページタイトルを書くわけです。そのときは数人しか浮かばなくても大丈夫。「あっ、あの人にも」と思いつくたびに書き加えていけばいいのです。
上記3は、「考える」「書く」というアウトプット作業の負担を軽減し、スピードを上げるコツであるとともに、論理的飛躍をおかさない秘訣でもあります(注2)。「調べる」「学ぶ」というインプットと「考える」「書く」というアウトプットは、いわば車の両輪であり、片方だけでは得るものは乏しいといわざるを得ません。それゆえ、能率・要領も大事です。
いかがでしょう、私もやってみよう、という気持ちが湧いてきましたか?
さいごに上野氏のメッセージを掲げます(後掲参考記事参照)。
独立したければ、まず1冊のノートを用意しなさい。なぜなら、うまくいっている起業家は、準備過程を記録しているから。逆に、起業で失敗する人は、記録を残していないことがほとんど。
(注1)じゅうぶん調べたり考えたりしないままビジネスプランをつくるなんて、勉強しないで試験を受けるようなものだと思うんですよ。マグレでも受かるわけないじゃん。
(注2)論理的飛躍をおかさない、という点については、少し説明が必要かもしれません。たとえば、「Facebookページでの情報発信によってブランディングを図る」という文章にしてしまうと、Facebookページ→ブランディング(手段→目的)という因果の流れに疑問を感じにくくなります。人は論理矛盾よりも、論理飛躍をおかすことのほうがよほど多いものですから。
この点、キーフレーズだけ列挙していくと、ほかの手段→目的の関係にも気付きやすくなります。手段→中間成果→最終目的の流れ(手段と目的の間に介在する事柄)まで見えてきたら、もうしめたものです。