誰のための創業セミナーか

先月、五回にわたる創業セミナー(「おおいた『リアルに考える』起業塾」)のメイン講師を担当させていただきました。

毎度、「こうすればわかりやすいのではないか?」、「こうすればお役に立てるのではないか?」と私なりに工夫をこらしているつもりですが、終わっていつも思うことは、「これでよかったのか?」ということ。

今回とりわけ問題意識を持って臨んだのは、次の四点でした。

事前に講座の内容や目指すゴールをお示しする

一点目は、受講者募集にあたって、事前に講座の内容や講座全体を貫く問題意識、目指すゴールについて、できるかぎりお示ししようとしたことです。

各所で多数開催されている創業セミナーの多くは、事前に主催者側の意図するところや内容が明らかにされず、どれも同じに見えます。違いがわからないのです。きっと、選びづらいと考えている受講希望者は少なくないのではないか?そう思ったのです。

受講者のお話を伺うと、講座選択ガイドとして一定の役割は果たせたようです(この講座を見つけた奥様から『あなたが探していたようなセミナーがある』と言われた、という方もいらっしゃいました)。

創業ノートのすすめ

二点目は、「創業準備過程で考えたこと、調べたこと、気づいたこと等をできる限り記録しよう」と呼びかけ、そのためのツールとして創業ノートを配布したことです。

結果は、私の予想した以上でした。ノートの書き進め方についてアドバイスを差し上げたとはいえ、いきなりノートに記録しようと言われて戸惑う方も少なくないのでは?と内心思ったのですが、最年少受講者から最年長受講者まで、多くの方は、箇条書きにする・図解する・表にするなど工夫されながら、じゅうぶんにノートを使いこなし、かつ克明に記録されていました。

最終日に各自アイデアサマリーをまとめる際、ノートが威力を発揮したことはいうまでもありません。

オリジナルテキストの配布

三点目は、「私製創業のテキスト」なる小冊子を配布したことです。この冊子は、創業に最低限必要なビジネス知識が表層的な言語理解にとどまることのないように、何を(コンセプト)、誰に(ターゲット)、どのように(ビジネスシステム)を中心に、いろいろな方向から光をあて、解説したものです。受講後に読み返して「ああ、そうだった」と振り返る一助になれば、と考えたわけです(パワーポイントスライドやレジュメだけでは、情報量に限りがあり、内容をロジカルに再理解するのは難しいのではないでしょうか)。

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実務家に現場のリアルな知恵を学ぶ

四点目は、マーケティング・プロモーションや店舗運営の実務に精通した人物を講師として招聘したことです。

ビジネスの中身についてじゅうぶんな知見をお持ちでないことが多い受講者の方々が、ビジネスをリアルにイメージしつつ「自分だったらどうするか?」を考えるためには、教科書通りの基礎知識を概説するだけでは足りない、とつねづね思ってきました。

そこで今回は、ITの専門家で、ネット店舗・リアル店舗の運営経験を有する坂本章彦氏、コピーライティングやプロモーション実務にも明るいデザイナーの後藤賢司氏のおふたりに、机上の原則論ではない現場の知恵を語っていただきました。受講者のみなさんも大いに刺激されたようでした。

私自身も、講義にあたっては、できるかぎり教科書的な説明を避け、私なりの表現を工夫したり、自分自身が迷い、悩んだ結果を織りこんだりしながら、「ビジネスのリアル」をお伝えしたつもりです。

これからの創業セミナーは

これからの創業セミナーは、「誰のための創業セミナーか」を強く意識すべきではないかと思います。創業希望者はいろいろ。ならばいろいろな創業セミナーが互いに違いがわかるように並立してしかるべきです。

ところが、いまに至るも、創業希望者の属性を分析し、あるセグメントに適したプログラムを提供しようという気運は総じて乏しいように思います(注)。唯一挙げられるとしたら、「女性向けセミナー」ですが、これとて「どのように男性と違った観点の支援が必要なのか」、「アファーマティブ・アクションとしてどのような積極的意義があるのか」といった論点に関し、共通認識は育っていない気がします。

「創業準備プロセスのここに立っている人達はこういう人達だからこのプログラムが適切」という考察は、マーケティングにおけるターゲット属性分析そのもの。「ターゲットを絞れ、差別化を図れ」などと講釈を垂れる側が、セミナーでそれができていないというのは、本来あってはならないことなのではないでしょうか。そこはセミナーに携わる私自身、銘記しておきたいところです。

(注)このような情勢下、私が注目しているのが、おおいたスタートアップセンターが開講しているスタートアップ道場「春日塾」。13回にわたるロングランで、各界講師陣の講義を聴いたり、幅広い分野の課題図書について合宿形式で議論したりと、異色で濃厚なプログラムになっています。内容詳細は存じませんが、ビジネスプラン作成と発表をゴールとする凡百の創業セミナーとは一線も二線も画する、タフマインドの経営者を育てる相互研鑽の場、いわば「起業家虎の穴」かと推察しているところです。過半の創業希望者はおそらく躊躇・敬遠せざるを得ないようなハードな内容ですが、さればこそ存在価値があると考えます。

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