個人のお客様からのご相談でいちばん多いのが「相続がらみ」のこと。
残念ながら、ほとんどの方は、ご自分が直面している問題の全体像を捉えきれていないので、質問はごく表面的なものになります。
たとえば、「建物の登記は誰に頼めばいいか」など。「と、おっしゃいますと?」と問い返すと、「父が亡くなったが、よく調べたら自宅の建物が未登記でした。いま住んでいるのは母だけなので、母の名義で登記しようと思うが、それは誰に頼めばいいでしょうか。」という感じです。
「建物の表示登記は、土地家屋調査士に依頼してください。権利の登記は、司法書士に依頼してください。」と答えるのは簡単ですが、そもそも、その方(および親族)が直面している問題は、建物が未登記であることではありません。
この件では、「まず遺産分割協議を行って、書面に残すこと。行政書士の助けを借りて遺産分割協議書を作成し、登記をどうするかをも含めて相談したらいかがですか。」と助言しました(保有不動産の価値・市場性を念頭に置くと、登記の必要性・緊急性・経済性が問題とも思われたからです)。
相続をどうするかは、大きく二つの問いに分けられます。
ひとつめは、「相続するのは誰か」ということ。これは、戸籍(改正原戸籍からすべて)を調べることで把握できるのが通常です。
ふたつめは、「何を分けるのか」ということ。預貯金や不動産、有価証券などが考えられます。プラスの財産にしか目がいかない人もいますが、被相続人(亡くなった方)のマイナスの財産(借金など)も対象になります。財産目録をきちんと作っている人などわずかでしょうから、相続財産の調査に時間がかかったり、遺漏が生じることもありますが、預貯金通帳の引き落としなどに着目すると、保険契約やローンの存在に気付けることもあります。
冒頭、「ほとんどの方は、ご自分が直面している問題の全体像を捉えきれていない」と申し上げました。誰に頼めばいいかわからない以前に、何を解決すればいいかわからない、というのが実情ではないかと思います。
この点、ファーストタッチで「何をすべきか。どのタイミングで各分野の専門家に何を依頼するか」の相談に乗る、いわば総合診療医のような役割を果たす専門家が求められます。
ところで、相続問題の支援にあたる専門家は、誰しも「自ら解決しようという意欲のない当事者の役に立つことは難しい」というディレンマに心当たりがあるはずです。
なるべく楽に、お金がかからず、泥もかぶらず、恥もかかず、汗もかかず、いやな思いもせず、自ら意思表示をせず誰にもいい顔をして、知らぬ間に問題が自然と解決すればいいなと思うのは、まあ人情です(相続に限った話ではありません)。
しかし、自ら事態を収拾する気がない人に助言をしても、それが生かされるかどうかと考えると、大変心もとない。高齢化が進み、被相続人のみならず相続人側をもが高齢になって、気力や理解力が衰えると、一層そうした傾向は強まります。
もしかしたら、相続問題の当事者は、それまでの人生で、主体的に生きてきたか、責任を引き受ける覚悟でやってきたか、人とのつながりを大事にしてきたかが試されているのかもしれない、と感じます。